【症例】MTAセメントを用いて歯髄を保存した修復治療

2026.06.21
| 治療内容 | MTAセメントによる歯髄保存とセラミックインレー修復治療 |
|---|---|
| 期間 | 4週間 |
| 治療回数 | 11回 |
| 費用(施術当時の料金) | セラミックの詰め物 66,000円(税込) MTAセメント 20,000円(税込) 入れ歯 保険適応内 |
治療前の状態・主訴
患者様は耳鼻咽喉科にて、歯が原因で上顎洞に膿が溜まっている歯性上顎洞炎(しせいじょうがくどうえん)と診断を受け、来院されました。耳鼻咽喉科では抗生物質を2週間分処方されており、食事中などに痛みはないとのことでした。
パノラマエックス線検査とCT検査の結果、左上6番が原因の歯であることがわかりました。また、右下6番の詰め物の下には黒い透過像が広がっており、虫歯であることが判明しました。
患者様は耳鼻咽喉科で左上の歯を指摘されたことをきっかけに、悪いところはすべて治したいとのご希望だったため、治療方針についてご相談の上、右下6番の深い虫歯にはMTAセメントを用いて神経の保存を試みる方針で治療を進めていくこととなりました。


治療詳細
1日目 パノラマとCTを撮影し、虫歯の有無、歯周ポケットの検査を行いました。
2日目〜5日目 歯石を除去し、左上6番の根管治療を始めました。
6日目 歯周ポケットの再検査を行った結果、検査時の歯ぐきから出血する割合も減り、セルフケアによるブラッシングの状態が改善していました。
7日目 右下6番の虫歯を除去し、露髄部分にMTAセメントを置き、レジンで被覆しました。
8日目〜9日目 右下の6番の型を取り、セラミックを装着しました。
10日目 左上の6番に痛みがあり膿がでていたため保存不可能と判断し抜歯しました。
11日目 入れ歯を調整、装着しました。

治療後の様子
患者様は、「右下に神経に達する大きな虫歯があったため驚いたが、神経を残すことができる治療方法を知り、歯の寿命を伸ばすことができて本当に良かった」と満足されていました。

主な副作用・リスク
・痛み:
成功率は100%ではないため、痛みを生じ、神経を取ることがあります。
・噛み合わせの違和感:
噛み合わせの高さや形態が合わず、違和感がでることがあります。
・破損、脱離:
歯ぎしりやくいしばりがある場合、詰め物の一部または全てが欠けることがあります。
・経年的な変化:
時間が経過すると、歯と詰め物の間に2次的な虫歯ができるリスクがあります。
MTAセメントの特徴
MTAセメントは、アメリカのロマリンダ大学で開発された歯科用セメントです。海外では、歯髄の保存、穿孔部の封鎖など様々な臨床応用が認められております。以下にMTAセメントの特徴をまとめました。
強アルカリ性による高い殺菌作用をもっている
セメントが固まる過程で水酸化カルシウムを放出することから、強アルカリ性(pH12)という性質を持ちます。虫歯や歯周病の原因となる細菌は強アルカリ性の環境下で生き残ることができないため、殺菌効果が期待できます。
封鎖性に優れている(膨張して隙間をつくらない)
セメントが固まる際、わずかに膨張して微細な隙間を封鎖することで、再び細菌が侵入するのを防ぎます。
新しく象牙質をつくるよう促す
歯髄に触れると、神経を保護するための新しい象牙質をつくるよう促します。
身体に対して安全な材料である
主成分はケイ酸カルシウムであり、細胞に対する毒性が極めて低いとされています。まわりの組織の治癒を妨げず、その再生を助けます。
これらの特徴をまとめると、MTAセメントは、患部を殺菌、封鎖し、まわりの組織再生を促すという優れた材料といえます。
従来では、神経を取るしかない、または、抜歯するしかなかった場合において、歯の寿命を長くする材料として期待されています。
MTAセメントの治療における効果
1.深い虫歯から歯の神経(歯髄)を守る
深い虫歯の時、虫歯の部分を削った際に神経(歯髄)が露出することがあります(露髄)。
従来は神経が露出すると、感染のリスクや痛みを避けるために神経をとっていました(抜髄)が、露出した神経の上に直接MTAセメントを塗布して神経を保護することで、歯をできるだけ長く保存することができるといわれています。
2.歯根の先端を完全に密閉し、再感染の確率を下げる
過去に根管治療をした歯が再度、細菌感染してしまった場合、従来は根管治療の最後にゴムのような材料を詰める際、隙間ができやすいという欠点がありました。
しかし、MTAセメントを隙間なく緊密に充填することで、再感染の確率を下げるとされています。
3.歯根にできた穴を塞ぎ、抜歯を回避する
深い虫歯によって歯根に穴が開いてしまった状態、根管治療で誤って根の壁を突き破った状態をパーフォレーションと言います。
従来はこの部位に細菌が入り込むと激しい痛みを伴うため、抜歯と診断されることがほとんどでした。
MTAは開いた穴をセメントで安全に塞ぐことで、歯を残せる可能性が高まります。
4.外科的な方法で歯根の先端を治療する
通常の根管治療ではどうしても治りきらない場合(根の先端に歯根嚢胞ができている)にも用いることがあります。患部に麻酔をし、歯ぐきを切り、骨を少し削ります。歯根の先端を数ミリ切除し、断面の穴にMTAセメントを詰めて密閉します。
以上のように、MTAによる治療方法は多岐にわたります。
MTAセメントの有効性を示す論文
MTAセメントの有効性は多くの論文やデータによって裏付けられています。その一部をご紹介します。
論文1:深い虫歯において神経をのこせる確率が高い
水酸化カルシウム製剤とMTAセメントを比較した研究
MTAセメントを用いた場合:成功率 約85% 〜 93%、水酸化カルシウム製剤(従来)の場合:成功率 約60% 〜 68%
(出典:Hilton et al., “Comparison of CaOH and MTA for direct pulp capping”, Journal of Dental Research, 2013 / Mente J, et al., “Treatment outcome of mineral trioxide aggregate in open apices”, Journal of Endodontics, 2014)
MTAセメントを使用することで、従来の方法よりも約20〜30%も高い確率で神経を残せることが実証されています。これまで、数年後に結果的に神経が死んでしまうことがありましたが、MTAセメントの象牙質の形成能によって大幅に減少しました。
論文2:抜歯とされてきたパーフォレーション(穿孔)の修理に効果がある
MTAセメントで穴を塞いだ症例の成功率:約86%
(出典:Siew WL, et al., “Treatment outcome of repaired root perforations: a systematic review”, Journal of Endodontics, 2015)
これまで抜歯と言われた歯を残せる可能性があります。
MTAセメントによる治療の注意点
MTAセメントは日本でも広まりつつある治療方法ですが、注意もあります。
注意点1:すでに神経の炎症(歯髄炎)がおきた状態で使用した場合
MTAセメントによって神経が残せるケースは、細菌感染はあるものの神経がまだ回復可能な場合とされています。
夜も眠れないほどの激痛がある、温かいもので激しく痛みがある、神経の大部分が細菌によって壊死しかけている状態(不可逆性歯髄炎)など、このような症状がでている場合は、神経を取り除かなければならなくなります。
注意点2:唾液や水が入らない状態(防湿)で治療を行っていない場合
わずか1滴の唾液の中には、数億から数十億匹の細菌が存在しています。治療中に唾液が神経の露出部に触れると、セメントの下で細菌が繁殖してしまい、神経を取り除かなければならなくなります。
注意点3:修復物の劣化や破損がおきた場合
プラスチックや被せ物が劣化、破損した場合、隙間から再感染するおそれがあります 。
注意点4:自費診療(保険適用外)に対する期待と成功率の差
MTAセメントによる治療は、日本の医療保険が適用されないため、自費診療となります。また、成功率が100%ということはあり得ません(成功率は約85〜93%)。思うような結果が得られず、神経が残せないこともあります。
センター南デンタルクリニックでは、従来の診断で神経を取らなければならない虫歯、抜かなければならない歯に対して、MTAセメントによる保存を行っています。治療のメリットやデメリットをしっかりご説明し、できる限り患者様ひとり一人の希望に沿った形で進めていけるように配慮しています。治療内容や方針に疑問があれば、ご遠慮なくご相談ください。ご理解いただき、ご納得された上で治療をすすめてまいります。
センター南デンタルクリニック
院長 吉竹絵里
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